購入者特典
付録と呼べるほどのものではないけれど、ちょっとしたオマケがついた本を作りました。
見返しに「すごろく」と「迷路」。
見返しは、本文と表紙をつなぐ紙です。
本文の紙より少し厚く丈夫なものが使われます。
本文と似たような白い紙でもいいのですが、なにしろ本を開いたとき最初に目に入る部分なので、ちょっとお洒落にしてみたくなります。
服装でいえばマフラーとか、ネクタイとか、手袋とかボタンとか、本人しか知らないような小粋な箇所。
見返しはほとんどの場合、紙の指定をするだけです。そこに印刷をしました。
もともとは編集者のアイデアで、何度かそれに案を出し合い、少しずつ形にしていきました。

『患者の壁』には「すごろく」。
本のテーマが、病院や医者の言いなりにならないで、自分の健康は自分で守ろうというもの。
年を取ると、何かと病院のお世話になることが増えますが、処方される薬は本当に必要なのか、節制のしすぎで人生を楽しめなくなっていないか、医者の言うことは100%正しいのかなど、一度きちんと考えてみてはどうですかと疑問を投げかけます。
言われるまま通院し、薬を飲み、入院し、体力を落としていく状態を、著者は「ベルトコンベア医療」と名付けています。
そのベルトコンベアをすごろくにしました。
ベルトコンベアに乗っても乗らなくても、人生のゴールは天に召されることに変わりはないのですが、どうせなら楽しく生きたい。

『専門医の壁』には「迷路」。
コミック『19番目のカルテ』を原作とするテレビドラマが昨年放映され、総合診療医のことを知りました。
松本潤演じる総合診療医は、患者の生活を丁寧に調べて、病名を突き止め、対応策を考えていきます。
こんなふうに患者に寄り添う医者なんているのだろうか思っていたのですが、現実にいるのです。それがこの本の著者です。
いまの医療体制が専門分化されていることは、なんとなく知っていたのですが、その弊害として患者を臓器別にしか診ていないため、処方される薬が増えてしまいます。全身を1人の医師が診ていたら、もしかしたら減らせる薬があるかもしれない。
そんな専門医の壁に阻まれる状態を迷路にしました。
ここでゴールすると、総合診療医の元にたどり着きます。

『患者の壁』
和田秀樹・著 九十九シンシャ

『専門医の壁』
和田秀樹 徳田安春・著 九十九シンシャ
装丁とおまけの制作を担当しました。
フォント見本帳を眺める
フォントメーカーのモリサワから届いた『フォントBOOK』を眺めています。
カテゴリーごとに分けられた書体見本帳です。
レイアウトを作るときは、ラフを紙に描きながら書体もおおまかに決めます。ここはクラシカルな明朝、みたいな。具体的にこの書体と決めることもあります。
だいたいの書体の特徴は頭に入っているので、それほど迷うことはないのですが、実際に文字を入れてみると「何か違う」と感じるときもあります。テキストがいつも漢字、ひらがら、カタカナ、欧文の割合が一定というわけではないので、文字の並びによって表情が変わるのです。
この『フォントBOOK』のいいところは、文字の持つ雰囲気とテキストの内容を合わせて文字組をしているところです。
かわいい書体で「苺あんパン」、洗練された書体で「生け花教室」のような見本の文字組があり、それらの書体を使った時の誌面をイメージしやすい。かわいい書体で「内閣総理大臣」と打つことはあまりないでしょうから。
書体に対する感じ方は人によって異なりますが、年齢によっても違ってきます。
堅い政治の記事を、全部かわいい書体で組んでも違和感を覚えない人たちが増えてこないとも限らない。
もしかしたら文字に対する自分の感覚は古くなっているかもしれない。常にそう自戒しなくてはいけません。だから新しい書体を見つけるとすぐに使ってみて、自分の中で馴染ませておくようにしています。


文学フリマ東京40
文学フリマ東京40に出店します。
5月11日(日)12:00~17:00
東京ビックサイト 南1-4ホール
南1-2ホール L-48 ロビンソン・ファクトリー
主催者HP
https://bunfree.net/event/tokyo40/
入場料1,000円
18歳以下 無料
16:30以降 無料
前回から会場が東京ビックサイトに移りました。そして今回は会場が2つに分かれました。巨大化が加速しています。
1つの会場でさえ店番を代わってもらっている間に見て回れるのはほんの一部だったのに、2つになってしまっては、それもフロアが違ってしまっては、別の会場にはとても行けません。
いろいろな人が思いもつかない本を作っているのが楽しくて来ていたのに、出店者になった途端、その楽しみが失われるとは。
『階段のネコ』
帰宅途中に出会ったネコとの話。

いつもおなじ雪といつもおなじおじさん

文字が目に刺さるような強烈な違和感が、文章のあちこちに起ち上がっていました。
仕事の手が止まって、ついつい読んでしまう。
レイアウトを担当した本で、こんなに作業が進まないことは今までありませんでした。
書名の『いつもおなじ雪といつもおなじおじさん』も、なんとも不思議なタイトルです。
「雪」と「おじさん」が並んでいるのは、ルーマニア語で「雪」を表す「ネア」には「おじさん」に近い意味もあるからです。
目に刺さる違和感とは、例えば「雪うらぎり」という単語。これは著者が作った言葉です。
1945年、著者の母(16歳)は強制労働でソ連へ送られようとしていました。それを避けるため、納谷裏に掘った穴に身を隠していたのですが、雪が降り出し、食事を届ける家族の足跡がついてしまい、仕方なく穴を出なくてはならなくなったのです。そして5年間の辛い収容所体験をしたのでした。
それから40年後、チャウシェスク政権下のルーマニアを出国するとき、トレーラーの床でガタガタ揺られていると雪が降り出しました。
「やっぱり、いつもおなじ雪。」と、母がつぶやきました。
彼女と家族にとって雪は、決してロマンチックなものではない。ロシア人の手先となる裏切り者なのでした。
もうひとつ、さらに強烈な違和感のある言葉は「眼飢え」。
病床の祖父のもとに、産まれたばかりの子牛が連れてこられたときのこと。
数週間後には国に搾取されてしまうため、食べることのできない子牛をじっと見つめ、両眼で貪り喰っていた祖父。
貪欲で恥知らずな視線を、著者は独自に作った言葉で表したのです。
ノーベル賞作家ヘルタ・ミュラーのエッセイ集。
本を作りながら、独特な言葉の虜になってしまい、彼女の長編小説『心獣』を取り寄せました。
こっちはもっと難しくて、同じ箇所を何度も読み直しています。
『いつもおなじ雪といつもおなじおじさん』
ヘルタ・ミュラー・著 新本史斉・訳 三修社
装丁は宗利淳一さん。
DTPを担当しました。
文学フリマ東京39で買った本
イベントに出店する朝の、自宅から会場へ向かう時の高揚感は特別です。この時間が好きなので何度もイベントに参加しているのかもしれません。
今回の文学フリマは東京ビックサイト。ゆりかもめの駅を降りて見えてくる巨大な逆三角形の建物は、何度経験しても圧倒されますが、この日はこの威容が気持ちを後押ししてくれるようでした。
『クソッタレな俺をマシにするための生活革命』済東鉄腸
「著者本人がいます!」呼びかけに振り向くと、済東鉄腸氏の新刊を売っていました。
声を張り上げている女性の隣には、細身で短髪の精悍な感じの男性。
済東鉄腸氏? 顔を知らないので、わあ、本人だ! とはならず、恐る恐る近づいてみました。
前作を読んだイメージとはちょっと違うけれど、でも本人かもしれません。
「あれ、読みました、あれ、あれ」と前作のタイトルを言おうとしましたが出てきません。
「千葉から?」「そう、それです」
サインをしてもらいました。
前作とは『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』。とても長くて、とても一気には言えませんが、タイトルの一部さえ言葉に出てこないとは。
おまけで『左右社のブックデザイン』をもらいました。左右社で発行している本の装丁についてまとめた小冊子。使用している紙が公開されていて参考になる上、作りもお洒落。
『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』の感想はこちら
https://blog.goo.ne.jp/robinsonfactory/e/9db6e4cb7d6419bd3efeed52bb40f95e




『レターズ・アンバウンド 第1便』
ずっと気になっていた翻訳同人誌。
海外文学は一般的にはあまり人気がないみたいで、短編はさらに出版されることが少ない。そんな中、プロの翻訳家、4人のほんやくシスターズ(廣瀬麻微、吉田育未、梅澤乃奈、武居ちひろ)が訳して本にしてくれました。
目次を見ても未知の作家ばかり(ぼくは作家に詳しくはないけれど)。
本文レイアウトは丁寧に作られていて読みやすいく、装丁も素敵です。
ぼくが行ったときブースに2人いて、1人はまだ修行中と言っていましたが、誰?
かわいい栞をもらいました。
吉田育未さん翻訳のエマ・ドナヒュー『星のせいにして』の感想はこちら
https://blog.goo.ne.jp/robinsonfactory/e/2869f669ccb1bab6f1dbf196b68da7b5


『俺の推し本。マガジンvol.1』㐧一芸人文芸部
出店の準備が終わって、開場前のお客さんがいない時間、会場をひとまわりしました。
吉本の芸人さんが作る㐧一芸人文芸部のブースに行くと、BSで放送している番組が本になっているのを見つけました。
「この本のこと番組では言ってなかったですね」と、準備をしていたファビアンさんに声をかけました。番組の収録と本の出版のタイミングが合わなかったためらしい。
ぼくが同じ出店者だと気づいたファビアンさんに「お互い頑張りましょう」と言われて、一瞬ぼくも芸人で、これから舞台に上るような気持ちになりました。

文学フリマ東京39
文学フリマ東京39に出店します。
12月1日(日)12:00~17:00
東京ビックサイト 西3・4ホール
E-15 ロビンソン・ファクトリー
主催者HP
https://bunfree.net/event/tokyo38/
入場料1,000円
18歳以下 無料
出店者入場証が届き、気がつくと残り10日ほどに迫っています。
準備期間は十分あったのに、今回は新しいものは作れませんでした。そんなに数を増やす必要があるのかと考えてしまったからです。
会場を回っていると、1冊の本しか売っていない人を見かけます。
それしか作れなかったからだと思うのですが、たった1冊を何部か重ねて机の上に置いているその姿は清々しく、野武士のようにも、女神のようにも見えてしまい、ふらふらと近づいて手に取ってしまったことは何度もありました。
あの格好良さが頭に浮かぶと、机の上に何冊も隙間なく並べてしまう自分のブースの方が貧弱に思えてしまうのです。
1冊で勝負、これがぼくの代表作、人生のすべて、感性の結晶。
でも結局、1冊に絞ることなどできないのです。
たくさん並べれば、一つくらい気に入ってもらえるものがあるかもしれない。そんな思いがどうしても離れず、どこに何を並べるか、ディスプレイを考える毎日です。


